2018.5.6 アメリカ村BEYOND Busker Noir(バスカー・ノワール)
2018年4月にオープンしたベースオントップグループの新ライブハウス、アメリカ村「BEYOND」。そのオープニングイベントの一貫として今回開催されたのは、言わずと知れた名ドラマーで、ベースオントップスタジオで行われているドラムレッスンの講師でもあるSakura(gibkiy gibkiy gibkiy/THE MADCAP LAUGHS/Rayflower/ZIGZO)が2015年から行っているドラマーにスポットをあてたイベント「Busker Noir(バスカー・ノワール)」だ。
「Drummerに音楽的にもパーソナリティにもスポットライトを」という趣旨のもと、Sakura作曲の”複数台のドラムセットだけで成立する”楽曲達を中心に、毎回テーマに沿った名曲達をドラマーならではの発想でアレンジするという「Busker Noir」は、なんと関西では初の開催。このチャンスに、なかなか味わえることのない濃厚な一夜をレポートする。
舞台を増設してセッティングされた、ドラムが向かいあうように3台設置されたビジュアルはまず圧巻だ。主役であるSakuraのドラムはオーディエンスに背を向けるように配置され、Sakuraのドラムプレイをバックスタイルから見られるという普段では見られない光景。その奥に設置された2台のドラムは今回のゲストドラマー、上手側LEVIN(La’cryma Christi)と下手側shuji(Janne Da Arc)。3人ともPearl楽器の人気ドラマ—という共通点もあり、統一感のある芸術的なセッティングにスタッフの方がオーディエンスより先にテンションが上がってしまうというワクワクした空間になっていた。
物販スペースにはDrum Songの譜面やPearl楽器から3名のアーティストモデルスティックを販売するなど、いつものライブとは少し違った雰囲気。そしてこの貴重な夜に駆け付けたのは、アーティストのファンはもちろんのこと、ドラムスクールの生徒さんたちやドラムスティックをかかえたキッズ、お母さんと共に参戦したなんと8歳という未来のドラマーまで様々。会場は超満員の状態だ。
そんな中、スタートは重く美しい「ドンッ」の一音からはじまる。Sakura作曲の”ドラムのアンサンブルだけで成立する曲”「Drum Song♯4」。日本でもトップクラスのドラマー3人の競演は想像以上に凄まじく、テクニックの話など些細なものにしか思えないほどの圧力と迫力に満ちていた。それぞれに個性的な音色を奏でる奇跡の競演に、彼らの活躍しているシーンの真っただ中に青春時代を過ごしてきた世代の筆者は胸がいっぱいになってしまったほどだ。
情熱的なオープニングが終わり、マイクを取り落ち着いた雰囲気でゆったり話すSakura。多くの場合、ライブのMCとはボーカルが担うことが多いため、これも非常にレアな光景だ。「Busker Noir」の趣旨と、今回大阪では初開催になることを告げると、会場は拍手に包まれる。さらに今夜を彩るゲストミュージシャンにSORA(vo/ex.INO HEAD PARK)、YOSHIHIRO(Gt/ギルド)、田浪真悟(Ba/Z’s)、荒井かずみ(Key)を呼び込むと、舞台はドラム3台がゲストミュージシャンを囲むスタイルに。
テレビのテーマソングで西の人間はみんな知ってるけど東の人間(Sakuraは東京都出身)は知らなかったという次の選曲は、確かに関西の人間に知らない人はいないだろう某有名番組のテーマ「ハートスランプ二人ぼっち」だ。初の関西公演ということでわざわざその曲を選んでくれるというチョイスにオーディエンスは大盛り上がり。ゲストミュージシャンとアイコンタクトをとりながら進むドラム3台の豪華セッションは見るべき場所が多すぎて目が足りない。
続いては「昨日の夜決まった」という特別企画、ギターのYOSHIHIROがメタル好き、特にLOUDNESSフリークなことから、LEVINが「S.D.I」、shujiが「CRAZY DOCTOR」のセッションを披露。まさか昨日演目が決まったとは思えない一流クオリティのセッションは流石ベテランのミュージシャンたちの競演だ。
そしてここからはそれぞれのドラムのアプローチの違いを楽しむターンとして、まずじゃんけん(笑)で順番が決められる。
一番手となったshujiは「あんまりドラム入ってないんやけど」と言いながらも最近テレビで偶然聴いてかっこよかったという「時代」をアレンジ。照明も相まってアダルトで大人な1曲に仕上がっていた。
二番手はLEVINが「本当に好きな曲」と豪語する「歌うたいのバラッド」だ。華やかでダイナミックなプレイスタイルのイメージが強い彼だが、実は「シンプルでおしゃれなドラムが大好き」だそう。そんなLEVINのプレイが見られるのもこのイベントならでは。
ラストはSakuraの「いっそセレナーデ」。Sakuraのプレイスタイルは本当に多様で、いろんな顔を持っているのに、打音ひとつでSakuraの音だとわかる。どうして打楽器であんな色っぽい音が出るのか、不思議でたまらない。
「好きな曲を選ぶとだいたい80年代からの懐メロになる」という話題で盛り上がったあとは、次のドラムのみの楽曲「Drum Song♯5」へ。曲を作るときに必ずテーマを決めるという今曲のイメージは「西海岸のLAメタル的なポップ」だそうで、それぞれの音がお互いに呼応して躍動する感じや、基本のリズムがどんどん変化していく様など、頭をからっぽにして今この場にある音に酔いしれることができる気持ちのいいアンサンブルを堪能できた。
再びゲストミュージシャンを呼び出し、次に披露されたのは”お願いソング”のターン。「○○の曲を○○っぽく」というテーマのもと、YOSHIHIROがアレンジを担当し仕上がった3曲とは…
2度目のじゃんけんにより、まずはLEVINの”クリスマス・イブLUNASEAバージョン”。「怒られるから言うなよ!!(笑)」といいながらも、ステディなハイハットでスタートした名曲がどんどん大先輩を彷彿とされるダイナミックなアレンジに…。
続いてはSakuraの「空と君のあいだにハイスタバージョン」。大胆なパンクアレンジを施され、今にもモッシュが起こりそうなノリノリの場内で、どんなスタイルのドラムも魅力的な彼のセンスに脱帽する。
ラストはshuji「ラブ・ストーリーは突然にメタルバージョン」。「さっきの(LOUDNESS)とほとんど同じやん(笑)」と言いながらもスピーディーながらもどっしりとした貫禄のプレイを披露し、サビではヘドバンするオーディエンスも続々。
佳境に入ったステージで、中東〜アフリカ大陸のイメージで作曲されたという「Drum Song♯7」は、今夜披露されたDrum Songの中でもとりわけ強く音からイメージを感じ取れる気がした。まるで太古の原始的な儀式を見るように神聖で、何かが降臨してきそうな迫力ある大きく拡がる世界観の中で、トリップしそうになる。
そしてなんと次は3人が「ドラムを叩きながら歌う」という、この上ないレア企画!!これまで舞台に背を向けるスタイルで
プレイしていたSakuraが、ドラムレッスン時にも使用しているというPearlの「リズムトラベラー」というコンパクトドラムセットを使用し、オーディエンスと向き合う形に。演奏された曲はなんと「仮面舞踏会」だ。
後から「我々は昨日打ち合わせで飲みに行くのではなくカラオケで練習するべきであった(笑)」と言わしめたこのナンバー、本当に個性的で味があり、ドラムスタイルに注視する余裕もなく楽しんでしまった!!”元”少年隊として結成された本日のセッションはリベンジを誓われ、本編ラスト曲はゲストミュージシャン全員との「飾りじゃないのよ涙は」。アルコールの似合いそうな大人のアレンジで締めくくった。
ラスト、アンコールはやはりBusker Noirの主役であるDrum Songから「Drum Song♯1」。ダイナミックさと繊細さが絶妙なバランスで共存する、スタートの一音でこの曲の持つ世界にグッと引き込まれる感じは、一瞬のような永遠のような不思議で心地よい感覚だ。中心のSakuraはもちろん、ゲストドラマーの2人も合わせて3人とも”テクニックが素晴らしい”なんて言ってしまうと今更過ぎて失礼になってしまう一流ミュージシャンだが、「打音一音でその人のバンドの音がする」のが本当に凄い。バンドで演奏している時はそれが標準なのであまり意識したことがなかったが、当たり前のことのようで気づきにくい、まさに「Drummerに音楽的にもパーソナリティにもスポットライトを」当てたイベントだった。
こうして終了したBusker Noir。なんとラストでは次回の東京での開催が8月31日であること、場所はベースオントップグループの「大塚Deepa」であることも発表された。本当にうっとりするほどドラムに酔いしれることができる貴重なイベントなので、ぜひ足を運んで頂きたい。
セットリスト
01.Drum Song♯4
02.ハートスランプ二人ぼっち
03.S.D.I(LEVIN)
04.CRAZY DOCTOR(shuji)
05.時代(shuji)
06.歌うたいのバラッド(LEVIN)
07.いっそセレナーデ(Sakura)
08.Drum Song♯5
09.クリスマス・イブ(LEVIN)
10.空と君のあいだに(Sakura)
11.ラブ・ストーリーは突然に(shuji)
12.Drum Song♯7
13.仮面舞踏会
14.飾りじゃないのよ涙は
AN
15.Drum Song♯1
SakuraオフィシャルHP
BEYONDオフィシャルHP
記事
ライター:岡本恵里